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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)11934号 判決

原告

池田斗華

被告

青空交通株式会社

右代表者代表取締役

浅野岩雄

右訴訟代理人弁護士

田辺満

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金一一四万〇〇九九円及びこれに対する昭和六三年一二月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告はタクシー業を営む株式会社であり、原告は昭和五二年四月タクシー運転手として被告に雇傭された。

2(一)  青空交通株式会社親睦会(以下「親睦会」という)は、被告の多数の従業員が加入している御用組合的な団体である。

(二)  被告は昭和五〇年中頃から、親睦会を通じて同会の会員に対し、被告に協力しているとの名目で一人一か月当たり一〇〇〇円の支給を続けている(以下右支給金を「協力金」という)。

(三)  原告は親睦会に加入していないため、被告から協力金の支払を受けていない。

(四)  被告は原告に対し、協力金を支払う旨約束した。

(五)  右(四)の事実が認められないとしても、被告は親睦会という御用組合的組織だけを優遇して、その会員に対しては協力金を支給し、それに加入していない者に対して支給しないという差別的取扱をした。そのため、原告は協力金相当額の損害を被った。

(六)  原告は被告に対し、昭和五二年四月から同六二年一二月まで一か月一〇〇〇円宛の協力金または協力金相当損害金合計一二万九〇〇〇円の支払を請求する。

3(一)  被告には、従業員がタクシー運転手を斡旋した場合は、一人当たり三万円を支払う旨の規定が存在する。

(二)  右(一)の事実が認められないとしても、被告は原告に対し、タクシー運転手を斡旋すれば一人当たり三万円を支払う旨約した。

(三)  原告は昭和六〇年三月被告にタクシー運転手一人を斡旋し、被告は同人を雇傭した。

4(一)  原告の入社以来の平均賃金月額は三二万円である。

(二)  健康保険法に基づく傷病手当金の額は平均賃金月額によって異なるところ、原告の場合休業一日当たりの傷病手当金の額は、右三二万円に〇・六(社会保険事務所が被保険者に保険金を支給する割合)を乗じ、二六(原告が一か月間に出勤する日数)で除した七三八四円である。

(三)  被告は社会保険事務所に対し、原告の平均賃金月額は一四万七五〇〇円である旨虚偽の申告をした。

(四)  原告は社会保険事務所から、次のとおり傷病手当金を受領した。

(1) 昭和六〇年七月三一日から同年九月二〇日まで五二日間の休業につき、一七万七〇〇〇円。

(2) 昭和六一年五月一一日から同年八月一〇日まで九二日間の休業につき、二七万九〇〇〇円。

(3) 昭和六一年一二月一三日から同六二年二月一六日まで六六日間の休業につき、二一万四三八九円。

(4) 昭和六二年七月二一日から同年八月一一日まで二二日間の休業につき、六万一六〇〇円。

(五)  原告の一日当たりの傷病手当金の額は七三八四円であるから、原告が支給を受けるべき傷病手当金は、右(四)(1)の場合三八万三九六八円、(2)の場合六七万九三二八円、(3)の場合四八万七三四四円、(4)の場合一六万二四四八円である。

(六)  被告が前記(三)のとおり虚偽の申告をしたため、原告は右(五)と(四)の差額である(1)につき二〇万六九六八円、(2)につき四〇万〇三二八円、(3)につき二七万二九五五円、(4)につき一〇万〇八四八円、合計九八万一〇九九円の支給を受けることができなかったから、被告は原告に対し右金員相当額の損害を賠償すべき義務がある。

5  よって、原告は被告に対し、右2ないし4の合計一一四万〇〇九九円及びこれに対する支払命令送達の日の翌日である昭和六三年一二月一五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2(一)の事実のうち、親睦会は被告の多数の従業員が加入している団体であることは認めるが、その余は否認する。親睦会は実質的には労働組合である。

(二)  同(二)、(四)及び(五)の事実は否認する。

(三)  同(三)の事実のうち、原告が協力金の支払を受けていない理由は否認し、その余は認める。

3  同3の事実は否認する。被告において過去に運転手斡旋の謝礼を支払っていたことがあるが、昭和五八年頃右を廃止し、そのことは点呼時に従業員に対し繰り返し通告している。

4  同4の事実は否認し、主張は争う。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  協力金請求について

1  請求原因2の事実のうち親睦会は被告の多数の従業員が加入している団体であることは当事者間に争いがない。

2  (証拠略)によれば次の事実が認められ、この認定に反する原告本人尋問の結果は採用しない。

(一)  親睦会は昭和五〇年秋頃に乗務員を中心とした従業員により組織され、その目的は会員相互の親睦を図り、会員生活の安定を期することにある。現在被告の乗務員数は本社で約一五〇名、東大阪営業所で約四〇名であるが、本社の乗務員のうち約一二〇名が親睦会に加入している。

(二)  被告は親睦会を労働組合として扱い、従業員の労働条件については親睦会と団体交渉を行って決定し、合意事項については協定書を作成し、他の労働組合加入の二、三名を除き全従業員に適用している。

(三)  親睦会は、会員が業務中に交通事故及び交通違反等を起こした場合に、同人が支払うべき反則金又は罰金を肩代わりするという罰金共済制度を運営し、会員から親睦会費及び罰金共済費を徴収している。

(四)  被告は親睦会の要求に基づき、同会に対し、罰金共済制度及び会員の旅行会や運動会費用に対する援助として、一年間で多いときは会員数に一万二〇〇〇円を乗じた程度の金額、少ないときに五〇ないし六〇万円を支給してきた。

(五)  右支給は親睦会という団体に対するものであって会員個人に対するものではなく、親睦会は支給金を罰金共済制度や旅行会などの費用に用い、会員個人に分配してはいない。

3  原告は、被告に協力金を支払う旨約したと主張するが、この事実を認めるに足る証拠はない。

4  原告は、被告の差別的取扱により協力金相当額の損害を被った旨主張するが、被告は親睦会に対し、罰金共済制度及び旅行などに対する援助として金員を支給しているのであり、原告に対しても右金員を支給すべき法律上の根拠はなく、原告が協力金相当額の損害を被ったとは認められないから、その余の点について検討するまでもなく、原告の協力金請求は失当である。

三  運転手の斡旋料について

1  原告、被告代表者各本人尋問の結果によれば、原告は昭和六〇年三月頃タクシー運転手一名を被告に斡旋し、被告は同人を雇傭したことが認められる。

2  被告代表者本人尋問の結果によれば、被告は、タクシー運転手の斡旋料につき規定をもたないが、以前運転手が不足したとき短期間、運転手を斡旋した従業員に対し紹介料を支払ったことがあること、被告は昭和五八年頃経営が悪化した時点から右紹介料の支払をやめその旨従業員に伝達し、それ以後右紹介料を支払っていないことが認められ、この認定に反する原告本人尋問の結果は採用しない。右のとおり請求原因3(一)の事実を認めることはできない。原告は、昭和六〇年二、三月ころ被告との間において口頭により請求原因3(二)記載の合意をした旨供述するが、右認定事実及び反対趣旨の被告代表者本人尋問の結果に照らし採用できず、他に右合意の成立を認めるに足る証拠はない。

四  傷病手当金の差額相当の損害賠償請求について

1  原告は、入社以来の平均賃金月額は三二万円であると主張する。

2  (証拠略)によれば、原告は毎月被告から合計三二ないし三九万円程度の支給を受けていることが認められるが、(証拠略)によれば、被告におけるタクシー乗務員の賃金体系は、月例給与と賞与及び一時金とに分かれており、月例給与は乗務回数によって定まり、それは毎月支給されること、賞与及び一時金は営業収入に応じた歩合給で、毎年四、八、一二月の三回、昭和六二年一〇月以降は七月と一二月の二回支給されていること、被告は希望する乗務員に対し、賞与見込額の一部を毎月貸付金として支給し、賞与時において清算していること、被告は乗務員に対し右月例給与と貸付金とを別々の袋に入れて渡しており、月例給与袋には給料支給明細書を、貸付金の袋には貸付金であることを明示した明細書を添付していること、原告が毎月支給を受けている前記金員のうち、月例給与は一四、五万円であり、その余は右貸付金であることが認められ、この認定に反する原告本人尋問の結果は採用しない。

3  健康保険法では、保険料額及び傷病手当金の額は標準報酬に応じて決定され、右報酬には臨時に支給されるもの及び三か月を超える期間毎に支給されるものは含まれないから(同法二条)、同法における原告の賃金月額は賞与及び一時金部分を含まず、月例給与部分のみであり、(証拠略)によれば、被告は右月例給与を原告の報酬月額として申告していると認められるのであるから、原告の本件請求はその余の点について検討するまでもなく失当である。

五  よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官土屋哲夫及び裁判官大竹昭彦は、いずれも転補につき署名押印できない。裁判長裁判官 蒲原範明)

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